先日ご紹介したビビさんのことですが、もっと話を聞いてみたいというお声をいただいたので、思い出しながらすこしだけ詳しくお話ししてみようと思います。
*
都会でなにがおきているかちゃんと聞こえてはくるけれど、実感するにはワンテンポ遅れるような、すこし郊外ののんびりした街に、あの頃のビビさんは住んでいました。
お友達の語るところによると、「彼女はポジティブな性格だけど、あまりはっきりとは表には出せなくて、たとえば誰かと誰かが面白い話をしていると近くで楽しそうにニコニコしているんだけれど、あまり大きく声を上げて笑っているところはみかけない」という性格だそうです。
ただ、そのあと、こうも言っていました。「でもただ控えめだっていうのとは違う。どんなに静かに黙っていても、あの子がいることは、その場にいるみんなが強く感じてる。押し付けがましくなく、はっきりそこにいる。表に “出せない” と言ったけれど、それは本人がそう思ってるってこと。すこし話してみれば、あんなにいろんなものをみせてくれる人はなかなかいないのがすぐわかる」。そう、たしかに、そうなのです。
ときどき、ひどく照れながら、小さな声で冗談を言うことがありました。それがまたユニークな視点の、ほどよくシュールなものだったので、友達のあいだでは「またビビが」とおもしろがられていました。
本人としては、いたって普通のジョークのつもりだったらしいのです。だから、みんなのおもしろがりかたについては、冗談をいう自分のたどたどしさが理由だと思っているようでした。でも、そういうことでもなかったのです。
目は悪いけれど普段はメガネはかけず、持ち歩いてはいるのですがなんとなく照れがあって、外ではあまりかけたがりません。そのせいで、看板を読むときや本屋さんの棚を見るとき、ときどきまぶしそうな顔をしています。
髪の毛はごくゆるくカーヴしてるのをそのまま背中まで伸ばしていました。おかあさんのようにまっすぐでもなく、憧れの女優のようにふわふわでもないことにすこしだけ不満はあるものの、パーマやショートカットには踏み切れなかったようです。一度は、という憧れはあるらしかったのですが。
いちど、さきほどの親友とふたりで、くるくるのウィッグをつけて街に出てみたことがあるそうです。そうしたら広場で絵描きのおねえさんに声をかけられて、ついついメガネでポーズまでとってスケッチしてもらっていたのだとか。
めったにしない冒険で手に入れたそのスケッチは、見るたびに顔が赤くなるものの、自分ではないような、でももうひとりの本当の自分のような気がして、だいじな宝物のようです。
一度はパーマをかけてみたい、と思い始めたのは、たぶんそのときだったのだと思います。
部屋でひとりのときは、ベッドに立って脚本めいたセリフを熱演してみたり、ラジオのDJのマネをして遊んだりもしているらしいのですが、数年前、一度おとうさんに見られてものすごく赤面してからは、どうやら人の気配にはかなり気をつけているようです。一度おとうさんとお酒をご一緒する機会があった時に聞きました。
また、作家に憧れていて、あのころ、内緒のペンネームで応募した短い物語が新聞に掲載されたそうです。その日の新聞を、家族にも内緒で、切り抜かずに大事にしまっているのだとか。
でもじつは家族は知っていて、だからこれもおとうさんから聞いた話なのです。おとうさんはとても誇らしげで、優しい顔をしていました。
これはぼくの印象ですが、最初はおとなしめにみられがちでも、ときどき周囲が驚くようなことを「えい」とやってしまう冒険的なところや、場を決定づける発言を静かに放ったりする芯の強さがあって、そこにはギャップや意外性もありつつ、なんとなく「らしい」かんじもしてしまうのです。その様子から、すこしだけ謎めいた印象を持たれることもあるようでした。
どこか時代に遅れたような、でもどんな時代にでもいそうな、すこし抜けたところもあるけれど一生懸命で、優等生的にみせてしまいがちな自分にやきもきしながらも、信じたことにはまっすぐでいたいと思っている。
当時、そう長くない期間だけビビさんたちの街のちかくに住んでいたぼくは、いく度か数えられそうなくらいの会話をしただけですが、そんな印象を持ったものです。
長くなってきたので、また機会をみてお話ししたいと思います。
*
これは、ビビさんの絵を書いてもらうための資料として書いたものです。具体的なことはすこしにして、想像をふくらませてもらいたいと考えてこうなったのですが……だいじょうぶなのか、ぼくは。
理想的なの女の子を思い浮かべようというのではなく、ビビというプロダクトの目指す姿を擬人化しようとしたつもりなのですが、まあ、ぼく自身がこういう人でありたいと思う姿は、どうやらかなり反映されているのかもしれないですね。
……世界名作劇場? ビビさんはいま何歳なんだ、どの時代のどの国だ、というかビビさんよりもお前はなんなんだ。とお思いかもしれませんが、そのへんは、またそんな気になったら書くかもしれなかったりもう書かないかもしれなかったり、いつのまにかしれっと掛け合いブログをはじめていたり、するかもしれなかったりしないかもしれなかったり。
プロダクトとしてのビビも、ビビさんのイメージも、完璧だったりてきぱきしてたりするのではなく、静かな一生懸命さでカバー、というかんじです。
ビビとビビさんをよろしくお願いします。